「あ、くん!ちょうどいいところに…」 屯所の廊下で呼び止められ、振り返る。 なにやら書類らしきものを手にした近藤さんが、手招きして立っている。 「俺、これから会津藩邸に行かなきゃならないからさ。悪いんだけど、これ山南さんに届けてくれない?」 「はぁ……いいですけど。」 「じゃあ、頼んだぜ!」 近藤さんは、私に書類を手渡すと、足早に屯所を出ていった。 忙しそうだなぁ… とりあえず、山南さんの部屋にいく名目ができたのだから、近藤さんに感謝しなくちゃね。 そのまま、山南さんの部屋へと向かう。 …が、そこであまり会いたくない人に出くわしてしまった。 新選組の筆頭局長、芹沢さんだ。 それもものスゴ〜い剣幕をして、こちらに向かってくる。 かなり機嫌が悪そうな感じ。 こういう時は、そしらぬ顔をしていた方がいいのだけれど、曲がり角でばったりと出くわしてしまったのだから、避けようもない。 「芹沢さん、どうかされたんですか?」 「あぁ…お前か。」 「顔色が優れないようですけど……」 私がそう言うや否や、芹沢さんは溜息をついた。 えっ………!? 「山南には困ったものだな。」 「山南さんが何か?」 「また奇妙奇天烈なモノを作ってやがる……」 そう言って、再び溜息をつく。 「発明……ですか?」 「ああ。あいつの考える事は俺には理解できん。」 そうか、芹沢さんは山南さんの発明品を見せられてたのか。 何だか、その時の様子を想像しただけで、笑えてくる。 「お前も今は、あいつの部屋に近づかない方がいいぞ。」 「はぁ……」 ここで笑っちゃ、芹沢さんの機嫌を損ねかねないので、ぐっと我慢。 芹沢さんの背中を見送りつつも、踵を返し、その山南さんの部屋へと向かう。 この時期だと、きっと例のアレを作ってるんだろうな。 「山南さん、入ってもいいですか?」 「君かい?ああ、いいよ。入りたまえ。」 障子を開けると、目を輝かせた山南さんがいた。 「あの、近藤さんからこれを預かってきたんですけど。」 「やぁ!いい所に来たね。まぁ、座って。」 山南さんは、書類を受け取るとそれを机に置き、座布団を出してきて自分の前に置いた。 これは、紛れもなく発明品のお披露目会……だよね? 「今ちょうど新作が出来上がった所なんだ。折角だから見ていかないかい?」 …………やっぱり。 進められるがまま、用意された座布団へと座る。 「何を作られたんですか?」 「お茶酌み人形なんだ。」 そう言って、山南さんが出してきたからくり人形を見て、私は目を疑った。 「山南さん…これ……」 確かゲームで見たからくり人形は、月代を剃ったような、古風な日本人形のイメージだったんだけど。 これは、どこをどう見ても、沖田くんにしか見えないんですけど!? 「もしかして、山南さんは沖田くんのこと………」 少し疑いの目を向けてしまう。 「嫌だなぁ。私には衆道の趣味はないよ。」 そう言って爽やかに笑う山南さん。 「私の発明を快く見てくれるのは、彼ぐらいだからね。たまにはこういうのも面白いかと思って。」 「この人形、芹沢さんにも見せたんですか?」 「もしかして彼に会ったのかい?見せた途端、急に顔色が変わってね……機能を説明する前に帰ってしまったんだよ。」 さっきの芹沢さんの表情に合点がいった。 この人形を見た瞬間、きっと今の私と同じ事を思ったに違いない。 誤解は解かれることなく、芹沢さんは立ち去ってしまったのだ。 何ともお気の毒な…………… 山南さんは、嬉しそうにいろいろな機能について説明してくれた。 「動かしてみてもいいんですか?」 「ああ、もちろんだとも!」 人形に手をかけて、ふと思い出す。 「これって、爆発したり…とかしませんよね?」 「まさか!爆発するようなものは一切使ってないよ。」 「……ですよねぇ。」 不安を隠しつつ、私はお茶酌み人形の腕を持ち上げてみた。 ポロッ………… 「…………………………!!」 予想外の出来事に、声が出なかった。 「あ、腕が取れてしまったね。」 「ごっ……ごめんなさい!壊すつもりじゃなかったんです!」 何で!? どうして腕が取れるワケ!? 慌てふためく私に笑顔を向けた山南さんは、 「接続が甘かったんだ。君のせいじゃないよ。」 と言ってくれた。 「でも……」 「失敗はよくあることなんだ。それにまた、作り直せばいいから。」 「すみませんでした!」 「そんなに謝らなくていいから。」 取り乱した私を見て、山南さんは笑っている。 「じゃあ、作り直した時、またこれを見に来てくれるかな?」 「はい、もちろんです!」 「今度は君の姿で作ってみようか…」 「…………えっ!?」 思いもよらない言葉に、返答が詰まってしまい、声が裏返ってしまった。 その反応を見た山南さんが、再び笑い出す。 「検討しておくよ。」 「いや……沖田くんの姿のままでいいですから!」 どうも、山南さんの方が、一枚も二枚も上手みたいな気がする。 それにしても、どうして人形は沖田くんの姿をしていて、爆発しなかったんだろう? 何か引っ掛かるような気がするものの、この時はまだ、その理由に気付くはずもなかった。 |
戻る ・ 次へ